CAE宝箱

大きなつづら2

振動の勉強をはじめてから三十数年になるが,学生のころはとりわけ非線形振動に興味を持っていた。当時はまだフラクタルという言葉を耳にすることはなく,カオスという言葉も本来の混沌という意味では存在していたものの今日のような意味で語られることはなかった時代であるが,非線形振動については位相空間を使って性質をあれこれ論じているのが何事であれ定性的に眺めることの好きな私の性に合っているように思えたものである。しかし,助手になってからは状況が一変してしまった。少しまともな計算をするときにはプログラムを鑽孔したカードの束を地区のセンターである名大まで持っていき,そこから東大か京大の大型計算機センターに送って貰い,計算結果のプリントをカードとともに受け取るのが早くて3日後という状況の中で研究生活を出発させた。また,鑽孔機の使用料も含めてカード1枚に2円も取られ,研究費の乏しい身としては痛かったことを憶えている。時間とお金の無駄遣いを許されない状況の中で慎重になりすぎたかなと今では思うことがあるが,テーマは確実に成果をあげられる線形問題に限定して,しかもあまり計算負荷がかからないものを選んで今日まで来ている。時折「線形なんて結局はもう分っている」,「線形問題は終わっている」と簡単に言い切ってしまう人に出会うことがある。若い頃にはそれで動揺させられたこともあったが,何に着目して判断するかによって立場は変わるとは思うが今では「まだ終わっていない」と確実に言えるようになってきた。

ここ何年かは解析解で実用的な問題が解けないか探っている。CAE ,FEM,BEMなどアルファベット3文字の短縮形がたくさん飛び交う中で何か時代から取り残されたことをやっているような感じを持たれたこともあったが,非常に強力な方法はあっても万能な手法というものは多分存在しないのであるから使える道具を増やしておくことに意味はあると考えてやや開き直っている。これまでは方法の基本的な部分を構築するのに精一杯であったが,やっと少しは実用性のある問題を対象にできるような段階に入ってきた。この方法を学生時代の名残で何とか非線形に結び付けられないかと考えることがある。さしあたり,場は線形で境界条件だけが非線形ならば対応できそうだと興味は持っているが,研究以外の仕事に時間を割かされることの多い身となっては残る研究生活の中で到達できるか気を揉むこのごろである。

(by 浦田喜彦:静岡理工科大学)